佐藤文香
詩へのフライト / 14
2025年12月18日
「こんがり倶楽部」をありがとう
毎年、誕生日とクリスマスを楽しみにしている。別にキリスト教を信じているわけではない。とくにいいことがなくてもパーティーができ、プレゼントを買ったりもらったりしていい日っぽいからだ。幼稚だと笑われそうだが、うちには子どもがいないので、パーティーもプレゼントも自分のため。40代もなかなか楽しい。この連載でもすでに「誕生日プレゼント」という文章を書いていた。
詩へのフライト / 4 「誕生日プレゼント」
先日忘年会で、のんべえの先輩に「クリスマスプレゼントの記憶ってありますか?」と聞いたら、「プレゼントじゃないけど、クリスマスイヴはかならず和食の居酒屋に行きます。いつもは予約でいっぱいの店でもこの日なら空いてるんです」と、素晴らしい情報をくださった。ある意味、この話こそがクリスマスプレゼントだった。
さて、今年の我が家用のクリスマスプレゼントはトースターにした。使っていたトースターの、下からあたためる熱の棒が壊れて上面しか焼けなくなって久しかったのだ。高すぎも安すぎもしない、ブラウンで丸みのあるフォルムのトースターを選んだ。届いたのでさっそく箱から出し、説明書を見たら、「こんがり倶楽部」と書いてある。どうやら、トースターの商品名のようだ。
……こんがり倶楽部。
なんてかわいい響きなのだろう。カ行、ガ行の音に挟まれた「ん」からラ行音で進行するリズムのよさ、唇をすぼませる「ぶ」で終わるかわいさ。表記の面でも「こんがり」というひらがなに、少しレトロな漢字の「倶楽部」がマッチしている。「こんがり」は香ばしく焼き上がることに使われる擬態語で、美味しそうな見た目も香りも、そしてサクッとした食感も思い浮かべることができる。「倶楽部」には、内輪の楽しい雰囲気がある。
新しいトースターも嬉しいが、「こんがり倶楽部」という言葉をたいへん気に入り、何度も説明書を見て笑顔になることを繰り返した。象印の商品なので、象のマークも笑っている。最終的に鉛筆で紙に「こんがり倶楽部」と書いて冷蔵庫に貼り、トースターのことは「こんがり倶楽部」と呼ぶことにした。少し「とんがりコーン」にも似ている(これもいいネーミングだと思う)。
そういえば、「こんがり倶楽部」くらい好きな言葉がある。「おひるね」である。昼寝すること自体も大好きだし、「おひるね」と口に出すのが好き。こうやってひらがなで書くのも好きだ。「お」「る」「ね」にくるっとまるまる部分があり、「ひ」だってふくらんだ餅をひっくり返したみたいでかわいい。あったかくて、気持ちよくて、「こんがり倶楽部」と「おひるね」は友達になれそうだと思う。ちなみに俳句で「昼寝」は夏の季語なのだけど、私は通年おひるね党である。冬のおひるねは冬の季語「日向ぼこ」に近いおもむきがある。「ひ」という音も共通している。
ふくろふのふくらめばおほきさがよい
佐藤文香
この句は「ふ」。自分で言うのもなんだが、第二句集『君に目があり見開かれ』のなかでもっともかわいい句だと思う。全部ひらがなというだけでなく、歴史的仮名遣の「ふ」「ほ」が出てくるのがふわっとしてほっとする。「ふくろふ」といえば、〈ふはふはのふくろふの子のふかれをり〉(小澤實『砧』)が有名だし私も好きだが、自分はどちらかというとおとなの生き物の方が好きなので、「おほきさ」の句にも存在意義はあると思う。
「こんがり倶楽部」、「おひるね」、「ふくろふ」。「あるまじろ」や「まぬるねこ」なんかも好き。私はこういう肌触りのいい言葉を、いつまでも口や心にころがして遊んでいる。こういうタイプの人には、言葉自体を味わうためのパッケージとして俳句をオススメしたい。覚えやすいし、場所も取らない。つぶやいても1句5秒くらい。クリスマスプレゼントにもぴったり、かもしれない。
というわけで、ここまで読んでくださったあなたに、クリスマスの俳句をプレゼントします。
へろへろとワンタンすするクリスマス
秋元不死男『瘤』
へろへろ、ワンタン、すす、る、リ、ス、ス。なさけなくて、調子よくて、かわいい。
へろへろワンタンでも、こんがりトーストでも、和食の居酒屋でも、
ではでは、それぞれ、よいクリスマスを。
佐藤文香(さとう・あやか)
詩人(俳句・現代詩・作詞)。兵庫県神戸市、愛媛県松山市育ち。句集に『菊は雪』『こゑは消えるのに』など。詩集に『渡す手』。
illustration | 原麻理子
title calligraphy | 佐藤文香
詩へのフライト/13
「ギラギラ」が効いたな